横浜地方裁判所 昭和37年(ワ)274号・昭37年(ワ)347号 判決
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〔判決理由〕よつて進んで原告等の遺留分減殺請求にもとづく予備的請求について判断する。
前記認定の如く本件遺贈のあつた事実及び右遺贈にもとづく本件農地の所有移転につき神奈川県知事の許可があつた事実についてはいずれも当事者間に争がない。そして右許可が前記判示のごとく適法であるとすれば、本件農地以外に安西藤吉の相続財産の存在について特段の主張立証がない本件においては右遺贈により原告等の遺留分が侵害されたものといわなければならない。
原告等は右遺贈について本訴において減殺の請求をなし、これに対し被告は時効を援用して抗弁するので右時効の抗弁について按ずるに、遺贈に対する遺留分減殺請求権の時効は遺留分権利者が相続の開始および減殺すべき遺贈があつたことを知つた時から進行するところ、原告等が右遺贈の事実を知つた時期を明らかにする証拠はなく、本件全証拠によるも、本訴提起の時において、原告等が右遺贈の事実を知つてから一年以上経過したものとは認めることができない。この点について成立に争のない甲第三八号証及び証人安西忠彦の証言によれば本件遺贈があつた直後である昭和三一年九月三日安西藤吉が数ケ月振りに原告安西亀代司の長男に伴われて鎌倉脳病院に診察のため赴いたことがみとめられ、右事実からするとあるいは原告安西亀代司が当時すでに右遺贈の事実を知つていたかの疑が生じないことはないが、右事実のみをもつてしては原告等が当時本件遺贈の事実を知つていたとすることはできない。
しかのみならず民法第一〇四二条の短期消滅時効は被相続人の財産の遺贈があつたことを知るのみならず、その遺贈の減殺し得べきことを知つた時より進行すべきものと解すべきところ、本件においては遺贈の対象たる物件が農地であつてこの有所権の移転について農地法第三条により県知事の許可を要し右許可があるまでは所有権は移転しないことは明らかである。かつ弁論の全趣旨によれば原告安西亀代司は昭和三七年神奈川県知事を相手どり農地法違反を理由に本件許可処分取消の訴を提起し本訴においても同様の理由によつて右許可の効力を争つているのであつて、このような場合においては、右許可無効の主張が特に悪意に出でたる特段の事情が認められない限りは、遺贈の事実及び知事の許可の事実を知つた時をもつて減殺すべき遺贈のあつたことを知つた時と解すべきである。しかして原告等の本件遺留分減殺請求の訴が右許可の時より一年内である昭和三七年三月二七日に提起されたことは記録上明らかであるから、原告等の本件遺贈の減殺請求権はいまだその時効が完成しないものであること言をまたない。
よつて原告等の遺留分減殺請求権にもとづく本訴第二次請求は理由がある。
(森 文治 石崎四郎 谷口茂昭)